感染症とは、空気・水・土・動物(人も含む)に潜んでいる「病原体」が体内に侵入することによって引き起こされる病気です。「病原体」は、人の体内に侵入(感染)すると、発熱、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、皮疹(ひしん)など様々な症状を引き起こします。そして、体内で増殖した「病原体」は唾液や便、鼻汁、痰(たん)などと共に体外へ排出され、また別の人の体内に入り込んで(感染して)増殖を繰り返します。こうして広がっていくのが感染症です。

病原体には代表的なものとして、インフルエンザウイルスやノロウイルス、コロナウイルスなどのウイルス、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌、腸管出血性大腸菌やコレラ菌などの細菌が挙げられます。ウイルスによって引き起こされるかぜなどは、多くの場合、安静にしていれば治癒するものですが、重篤化して肺炎を併発したり、重い疾患を引き起こしたりするものもあります。したがって、いきなり高熱が出た、症状がなかなか改善しないといった場合は、お早めにご受診ください。

かぜ(風邪症候群)

かぜは「風邪症候群」が正式名称で、ウイルスや細菌といった病原体によって引き起こされる上気道(鼻や喉)の炎症による一連の症状のことです。主な症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、咳、痰、発熱などがあり、これらの総称が風邪症候群です。小児から高齢の方まで幅広い年代がかかる病気で、基本的に特効薬とされるものはありません。

風邪症候群の原因となる病原体の8~9割はウイルスで、ウイルス以外では一般細菌やマイコプラズマ、クラミジアなどがあります。ウイルスで頻度が高いものは、ライノウイルスが挙げられ、ほかにはコロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどがあります。

こうしたウイルスなどの病原体は、罹患した人のくしゃみなどの飛沫に含まれて拡散します。それが鼻や喉といった上気道の粘膜に付着し体内に侵入、増殖してかぜの症状が現れます。ただし、ウイルスが体内に入っても全ての方が発症するわけではなく、免疫によって排除され、発症しないこともあり、その人の体力や体調、免疫力に左右されます。一方、原因となるウイルスは、全部で200種類以上はあると言われており、さらにこれらは変異もするため、一度感染して免疫ができても、またかぜをひいてしまうという可能性もあります。

かぜの症状は、通常感染から1~3日後に現れます。はじめは喉の痛みや鼻の不快感などで、鼻水やくしゃみが出るようになります。鼻水は、最初はさらさらとしていて、段々どろどろした黄緑色に変化することが多くみられます。小さなお子さんでは発熱することが多く、38~40℃の高熱が出ることもあります。ただしかぜの症状は、人によって様々で、現れるものと現れないものがあります。こうした症状は7~10日程度で軽快しますが(咳だけ数週間残る場合もあります)、軽快しない場合はほかの病気を疑うこともあります。

原因がウイルスの場合は、とくに効果のある薬はなく(抗菌薬は効き目がありません)、水分や栄養分を十分にとって、安静にしているのが治療法となります。ただし発熱や鼻症状に対しての対症療法としての薬は使用する場合があります。3日以上高熱が続く、また膿の混じった痰や鼻水、扁桃の腫れなどがみられる場合は細菌感染が原因と疑われるため、抗菌薬による治療が行われることがあります。

インフルエンザ

インフルエンザは、インフルエンザウイルスが体内に入り込むことによって起こる感染症です。症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、咳などかぜと似た部分もありますが、特徴としては38度以上の高熱が出る、頭痛や関節痛、筋肉痛などの全身症状が現れる、急激に発症するといったことが挙げられます。

インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型と3つの型があり、その年によって流行するウイルスの型が違います。これらウイルスのうち、A型とB型の感染力は非常に強く、日本では毎年約1千万人、およそ10人に1人が感染していると言われています。インフルエンザもかぜと同様に、かかっても、軽症で回復する人もいますが、高齢の方では、重い肺炎を引き起こしたり、乳幼児や小児のお子さんでは、痙攣や中耳炎、まれに急性脳症など重篤な合併症を引き起こしたりすることがあります。このほか、妊娠中の女性や持病のある方(喘息、慢性呼吸器疾患(COPD)、慢性心疾患、糖尿病等の代謝性疾患など)も重症化するリスクが高いので注意が必要です。

インフルエンザの治療としては、抗インフルエンザウイルス薬が処方されます。内服薬、吸入薬、点滴薬があり、早期の段階(発症後48時間以内)に開始すると高い効果が期待できます。発熱期間は通常1~2日間短縮され、ウイルス排出量も減少するとされています。なお症状が出てから48時間以降に服用を開始した場合、十分な効果は期待できませんが、実際には症状や経過をみながら医師の判断によって薬の服用などの治療方針を決定していきます。

感染性胃腸炎

感染性胃腸炎とは、細菌・ウイルス・原虫・寄生虫・真菌など様々な病原体の感染によって引き起こされる胃腸の病気の総称です。なかでも大半を占めるのが、ウイルスにより起こるウイルス性胃腸炎と、細菌によって起こる細菌性胃腸炎です。

ウイルス性胃腸炎を引き起こすウイルスとして代表的なのがノロウイルスです。これは1~2日の潜伏期間の後、激しい嘔吐や下痢の症状を発症します。2~3日は強い症状が続きますが、多くはその後、速やかに症状が改善します。ノロウイルスのほかには39度台の高熱が出て1週間ほど強い下痢が続き、脱水症状を引き起こす危険があるロタウイルス、下痢や腹痛が主な症状で、季節を問わず発症がみられるアデノウイルスなどがあります。

細菌性胃腸炎を引き起こす病原菌としては、病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、エルシニアなどがあり、しばしば小児でも発症がみられます。症状としては、嘔吐を伴うことはありますが、主に腹痛や下痢、血便などの下腹部の症状が中心となります。

治療としては、ウイルス性胃腸炎の場合、抗菌薬は無効です。そのため主な治療は症状を緩和する対症療法となります。強い嘔吐や下痢がある場合は積極的に水分摂取を行い、飲水ができない状態であれば医療機関で点滴を行う必要があります。また発熱・腹痛がある場合には、解熱鎮痛剤を使用します。とくに下痢や嘔吐による脱水や低血糖を防ぐためには、電解質や糖が配合された経口補水液を口から補給することが大切になります。

細菌性胃腸炎に対しては、感染した細菌の種類に応じて抗菌薬の使用を検討します。ただし症状が軽い場合には、ウイルス性胃腸炎と同様に対症療法を行いながら、改善を得られることも多いため抗菌薬を使用しない場合もあります。高熱や激しい下痢、血便など、重い症状がある場合は、抗菌薬での治療を検討します。